「ティエリア、」
あなたの言葉がほしい、あなたの笑顔がほしい、あなたのキスがほしい、あなたのあたたかい腕がほしい、あなたの温度がほしい、あなたの愛がほしい、あなたの心がほしい、あなたの喜びがほしい、あなたの悲しみがほしい、あなたの痛みがほしい、(あなたの全部が、ほしい)。
尽きることなんか一生ないのだろう欲望の、前からふたつめまでを手に入れたところではっとした。同時にぞっとして、僕は彼との距離を取り戻した。もっともっとと深みに向かう自分を制止したもうひとりの自分を今、猛烈に褒めてやりたいと思った。自分はばかだった。
「ティエリア、?」
彼が呼ぶ。急に現実のかたちを目の当たりにしてしまった僕は、どうも最近おかしい。だってしょうがない。彼はいまや夢の中でしか生きていない。生きていけない。
「きみは、ロックオン・ストラトスなのか?」
夢の延長上からひっそりと現れたような男。目の前で腕を組んで壁にもたれる。その姿は、まさに彼そのもので(まとう空気の違いがこんなにも顕著だなんて)。
「ああ。ただ、あんたの知っているロックオン・ストラトスのことを言っているのならたぶん違う」
「兄、だそうだな」
「そう。おれが弟。彼が二ールで、俺がライル。ふたりは同じ人間だったけど、別の人間になっちまった。そしてまた、同じ人間になってしまった……なんて、笑えない話だな」
「君は、!……兄が死んでかなしくないのか」
ティエリアは問う。分からないのだ。顔も姿も身長も歳もそっくりな彼と、彼の関係性。『ロックオン』が口を開こうとする。その言葉はいちばん聞きたくて、いちばん聞きたくない言葉だ。
(せめて、)
何もわからない彼が、せめて彼と同じ傷口をしてくれればいい。その傷の容態も大きさも知らない自分がなんとなくそう思ってしまうほど、彼は近くて遠い。
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