ほんとうは全然優しくないくせに、ほんとうは本当に易しくない男のくせに、自分の影に隠れてその狡猾さを巧妙に隠して、ほんとうに狡い男だと思う。フラッグの遥か下方で溶けゆく雲を見ていると時々どうしようもなく歯痒くなるときがある。フラッグのせいではない。たとえあの男がカスタマイズしたフラッグだとしても、否、むしろ『だからこそ』というべきか…―――確かに空を駆ける快感がある、えもいわれぬ興奮は、たしかにそこにある。だが―――雛形通りなんて面白味がないが、あえて月並みに云ってしまえば―――彼がまるで浮雲のような男だから、しかも流れては消える健気さなんてかけらもない、人の心にふてぶてしく居座る男だから。
彼は頭がいい。グラハムなんかよりずっとずっと頭がいい。だからといってしまえば容易いが、彼がグラハムにどんなことをしようが、グラハムが彼にどんな思いを抱こうが、グラハムはいつだって彼の友人である。それを惜しいと思うことはあっても悔しいと思っても悔しいと思うことはない。そんな自分が明らかに可笑しいことぐらい、とうの昔にグラハムは理解している。
「きみはどうしたいんだい?」
「云わせたいのかカタギリ」
「知りたいだけさ」
気のあるふりをして突き放すくせに。自分からは絶対に手の内を明かさないくせに。いかにも自分は無関係ですよと笑ってみせるのに。こんなにひどい男なのに。
「カタギリ、2100に例の場所だ」
雲の中溺れて(掴むことも出来ないくせに)
PR