ざくざく、ざくざく。
春。日差しは緩く、だが熱い。
ざくざく、ざくざく。
これが冬だったら、雪なんかだと思えたのかな。きれいだなあ冬だなあとか自分を誤魔化しながらこの道を歩いてゆけたのかなあ。
ざくざくざくざくざくざくざくざく。
真っ白が埋め尽くす道路だった場所を踏みしめるように歩いてゆく。
ざくざく、ざく。
真っ白は、塩。全部おんなじ塩。海月と同じ、 塩。
(海に行こう、連れてってやるよ、だからもう泣かないでくれよ、なあ、ほらそんなんじゃ海に行く前にいなくなっちまうよ、なあ、俺にひとつくらいなんかさせてくれよ、本当に身勝手でわがままな海月、最後の最後の瞬間だけ俺を選んだどうしようもなく愛しい君、)
( み つ き の た め に 、 )ざくざく、ざくざく、ざくざく、ざくざく、ざくざく、ざくざく、
塩に満ちても道は絶えない。
海は見えない。
君は白く、うつくしいまま、溶けもせず、どこにもいかず、俺とともにいて、
俺たちは、青いあおい海を目指す。
(途中で薄々気付いてた、身体の内側、血管とか筋肉とかそんなものたちがすこしずつ自分のものじゃなくなってゆく感覚、歩きながら必死で誤魔化していた、慣れない重労働に訴えかける声ではないこれはまさに君と同じこの世界を苛むこの世界を陥れる、 塩 。)(それなら早く早くはやく早くはやく、!一刻も早くこの身体が君の願いを叶えられるうちにこの身体が君の破片を連れてゆけるうちにこの身体が俺のものであるうちにこの俺がこの俺で在れるうちに!)
(白い身体の俺たちは青いあおい海を目指す)
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