※キリスト教の『7つの大罪』のお話です。先に調べておいたほうがいいかもしれません(→
ウィキ)※
傲慢で
嫉妬深く、
憤怒が常に深く根を張り、
怠惰で
強欲、
暴食ばかりで
色欲も尽きず。嗚呼なんと罪深きかな7つの大罪!
別に俺が熱心なキリスト教徒であるわけではない。みなさんご存知のとおり、俺の後ろ(学校の席順の話だ)にはいつも破天荒なカミサマがいらっしゃりやがるし、そもそも俺は宗教を語るほどの学も興味も暇もなく、そしてなんといっても無神論者である。だから正月の初詣にも行けばクリスマスも祝うし、命の危機を感じたときにはアッラーにも命乞いをしたり、時にムハンマドの預言能力をつくづくうらやましくも感じる。何でもありだ。
……話を戻そう。冒頭のこの言葉はなんと言うことはない、いつもの古泉の悪癖の話だ。古泉の悪癖、なんていったら顔が近くてキモいとかキモい似非スマイルとか存在自体がキモいとか何事に対しても唐突であるとか、そのくせ前ふりはやけに長いとか、超能力者だとか、ハルヒを神と称すそのセンスとか、思い込みの激しさとか、数え上げればキリがないが、今回はこれだ。『古泉一樹独特の回りくどく小難しいわけの分からない話』。
「7つの大罪というのを、知っていますか?」
古泉の唐突な問い。キリスト教徒であるわけもなく無神論者で(この話はさすがにもういいか)ある俺は何だそれは、と返した。古泉はふっと息を吐いて笑った。白い頬が薄い唇の端を引き上げる動作に、俺はすっかり慣れてしまっていた。こんな酷い顔、いつぶりかもしれないのに。
「ぼくのことですよ」
ひとことそう云ってひとり詰め将棋を始めた古泉を、そのときはただなんとはなしに見ていたのだが、いざ家に帰るとなんとなく気にかかり、携帯を弄って調べてみるとすぐ出てくるその単語に俺は握っていた携帯を鞄に突っ込み、元来た道を逆走した。脳は沸点直前だ。
(ふざんけんじゃねえよ、)
人間を罪に導く可能性があると見なされてきた欲望や感情。それがどうした。俺は俺の意思でお前とそういうふうに接してるんだよ!なめんじゃねえよ、人を莫迦にするのも大概にしやがれ!
今すぐあの白い頬を張ってやりたいと思う。確かにお前は俺にとって一番の罪だ。苦い思いをかみ締めながら、今はその罪を思い切り抱きしめてやりたいとも思う。いい加減にしてくれ、俺をそうやって苦しめるのは。古泉の背中が近づく。伸ばした指先が、最初に至るのは、腕か、白い頬か。焦がれることも、知りやしないそのくちびるか。