「やあ刹那、朝の挨拶、すなわちおはようという言葉を謹んで送らせてもらおう!今日もモーニングコーヒーが美味いな、今日と言う日は二度とはこない、かといえ毎日普遍の日常の平和をかみ締めることもまた人生の素晴らしき歓びだ、そう思わないか刹那、………」
寡黙な少年と饒舌な男。ふたりが出会えば、当然会話のイニシアチブは男にある。男が朝から機関銃のように話し続ける。男は何せ口から先に生まれてきたのではというくらい口が達者なものなので、話すことが得意でもない少年は黙ってそれを聞く。男はそんな少年を知ってか知らずか喋り続ける。
が、男の話は長い。とても長い。そんなわけでいくら我慢強い少年でも30分もこの演説を聞けば飽きもする(少年がそう感じる時間は日によってまちまちだ。10分のときもあれば根気強く1時間だったりもする)。少年がそう感じたら、セカンドフェイズに移行。
「…そこでだ刹那、私は今日というこの素晴らしい日を、君と一緒に過ごすこと叶わず、仕事、しかもデスクワークという平々凡々な職務に……」
「うるさい」
少年が声を発する。目を合わせる。指に触れる。手を伸ばして、肩に、腕に、髪に、頬に、からだじゅうに触れる。焦れるくらいに緩慢な動きはもどかしいほどの愛を雄弁に語る。先ほどまであんなに滑らかだった男の舌は、急に「あ、」「う、」とたどたどしい言葉を紡ぎ出し、少年はそれを目だけで笑う。
愛を語るにはあまりにも相応しい瞳だと、グラハムは苦笑した。
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